● 餓鬼道 ●


餓鬼道を明さば、往処に二あり。
一は地の下五百由旬にあり。閻魔王界なり。二は人・天の間にあり。
 その相、甚だ多し。いま少分を明さば、
 或は鬼あり。食吐と名づく。その身広大にして長半由旬なり。常に嘔吐を求むるに、困んで得ることあたはず。昔、或は丈夫、自ら美食を食ひて妻子に与へず、或は婦人、自ら食ひて夫・子に与へざりしもの、この報を受く。
 或は鬼あり。食気と名づく。世人の、病に依りて、水の辺、林の中に祭を設くるに、この香気を嗅ぎて、以て自ら活命す。昔、妻子等の前に於て独り美食を食へる者、この報を受く。
 或は鬼あり。食法と名づく。嶮難の処に於て馳け走りて食を求む。色は黒雲の如く、涙の流るること雨の如し。もし僧寺に至りて、人の呪願し説法することある時は、これに因りて力を得て活命す。昔、名利を貪らんが為に不浄に説法せし者、この報を受く。
 或は鬼あり。食水と名づく。飢渇身を焼き、周惶して水を求むるに、困んで得ることあたはず。長き髪面を覆ひ、目見る所なく、河の辺に走り趣いて、もし人河を渡りて、脚足の下より遺し落せる余水あれば、速かに疾く接し取りて、以て自ら活命す。或は人の、水を掬びてなき父母に施すことあらば、則ち少分を得て、命存立することを得。もし自ら水を取らんとすれば、水を守るもろもろの鬼、杖を以て鞭ち打つ。昔、酒を沽るに水を加へ、或は蚓・蛾を沈めて、善法を修めざりし者、この報を受く。
 或は鬼あり。食望と名づく。世人の、亡き父母の為に祀を設くる時、得てこれを食ふ。余は悉く食することあたはず。昔、人の労して少しく物を得たるを、誑かし惑はしてこれを取り用ひし者、この報を受く。
 或は鬼あり。海の渚の中に生る。樹林・河水あることなく、その処甚だ熱し。かの冬の日を以て人間の夏に比ぶるに、過ぎ踰ゆること千倍なり。ただ朝露を以て自ら活命す。海の渚に住むといへども、海は枯竭せりと見る。昔、路を行く人、病苦に疲れ極れるに、その賣を欺き取りて、直を与ふること薄少なりし者、この報を受く。
 或は鬼あり。常に塚の間に至りて、屍を焼ける火を食ふに、なほ足ることあたはず。昔、刑獄を典主して人の飲食を取りし者、この報を受く。
 或は餓鬼あり。生れて樹の中にあり。逼狭して身を押さるること賊木虫の如く、大いなる苦悩を受く。昔、陰涼しき樹を伐り、及び衆僧の園林を伐りし者、この報を受く。
 或はまた鬼あり。頭髪垂れ下りて、遍く身体に纏はり、その髪、刀の如くその身を刺し切る。或は変じて火と作り、周り廻りて焚焼す。
 或は鬼あり。昼夜におのおの五子を生むに、生むに随ひてこれを食へども、なほ常に飢ゑて乏し。
 また鬼あり。一切の食、皆食ふことあたはず。ただ自ら頭を破り脳を取りて食ふ。
或は鬼あり。火を口より出し、飛べる蛾の、火に投ずるを以て飲食となす。
或は鬼あり。糞・涕・膿血、洗ひし器の遺余を食ふ。
 また外の障に依りて食を得ざる鬼あり。
謂く、飢渇常に急にして、身体枯竭す。たまたま清流を望み、走り向ひてかしこに趣けば、大力の鬼ありて、杖を以て逆に打つ。
或は変じて火と作り、或は悉く枯れ涸く。
或は内の障に依りて食を得ざる鬼あり。謂く、口は針の孔の如く、腹は大いなる山の如くして、たとひ飲食に逢ふとも、これを食ふに由なし。
或は内外の障なけれども、用ふることあたはざる鬼あり。謂く、たまたま少かの食に逢ひて食ひ飲めば、変じて猛焔となり、身を焼いて出づ。
 人間の一月を以て一日夜となして、月・年を成し、寿五百歳なり。
正法念経に云く、
慳貪と嫉妬の者、飢餓道に堕つと。



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